DJ JIN(RHYMESTER / breakthrough)インタビュー
こんにちは! MIONアップサイクルのレコード・コラムを担当している五辺と申します。
普段はレコードに関する駄文を書かせていただいておりますが、今回は特別企画としてRHYMESTERのDJ JINさんに突撃取材!
国内ヒップホップ・シーンを牽引するRHYMESTERのメンバーであり、DJ/プロデューサー集団のbreakthroughを主宰するJINさんに、愛用している機材や思い入れのあるレコードについて話を聞いてみました。
目次
DJ JINの愛用機材
——本日はよろしくお願いします。
今回のインタビューの経緯ですが、以前、MIONから「オーディオに詳しいライターがいたら教えてほしい」という話がありまして。そのとき、まっさきに浮かんできたのがJINさんだったんですね。プロのDJであり、かつてライターとしても活躍されていたJINさんにお願いすれば、読み応えのある記事を書いていただけると思いまして。
それで、先日お会いした際に打診させていただいたところ「インタビューだったらOK」ということでしたので。
DJ JIN:まぁ、音を商売にしている身なので、自分のわかる範囲であればお話ししていきたいなと。
——ぜひぜひ。それでは、JINさんが愛用されているターンテーブルやカートリッジ(レコード針)などを教えていただけますか?
DJ JIN: DJ的に機能面、音響面でベストと思えるものを自分なりに探して使っているので、いわゆるオーディオ・ファンの方にそのまま通用するものではないとは思うんですが。まぁ、DJとしてはごく一般的な機材を使ってます。
ターンテーブルはTechnicsのSL-1200MK7。名機SL-1200シリーズの最新版です。
DJミキサーはPioneer DJのDJM-450で、それをYAMAHAのMG20XUというミキサーに入れて。そのYAMAHAのミキサーではパソコンの音とか、制作に使うアウトボード類の楽器や音源といったものをまとめていて。
それをKRKのROKIT 5 G4というスピーカーから音を出しています。レコードを聴くだけではなく、曲もそのシステムで制作していて。
Technics SL-1200MK7
DJ JIN:TechnicsのSL-1200シリーズは、いわゆるDJが使うターンテーブルとしては、昔から超定番として知られています。
DJとして一番嬉しいのは、しっかりした音が出るというのはもちろんなんだけれども、耐久性っていうか、頑丈さがとにかく(笑)。DJってやっぱ、ターンテーブルをハードに使ったりするものなので、頑丈さが一番大事というか。それこそ、前に使っていたSL-1200のMK3は、20年くらい使っても壊れなかった。
で、やっぱクラブとかディスコだと、お酒とかも乱れ飛んだりとか(笑)。
——(笑)。
DJ JIN:「ウェイウェイー!」となってしまう状況でも長く使い続けられるっていうのを実現させたのが、Technicsさんの凄いところだと思う。どんなにハードに使っても、20年くらい使えちゃうみたいな。長い間「DJ用のターンテーブルといえばこれ!」っていう絶対的な信頼感がある。
最新版のMK7は、音質面の強化もはかられていて。とにかく、DJでターンテーブルを買うのであれば、TechnicsのSL-1200はマストでございます。
KRK ROKIT 5 G4
DJ JIN:スピーカーは、KRKのG4。以前からずっとKRKを使っていて。
自宅の作業部屋で曲を制作するにあたり、スタジオみたいに爆音を出せないときに何が一番大事かっていうと、ある程度の音量でもしっかり迫力が伝わってくること。スピーカーから近い位置で、クラブで聴いているような臨場感っていうか。
音の解像度とか、クラブミュージックとしてどのように通用するか、ということを聴き分けられるスピーカーを選ぶことが大事で。
——なるほど。
DJ JIN:それぞれのスピーカーに特徴があって。凄く解像度が高いけど、その分ローの迫力が薄かったり、ある程度の爆音で出したときは凄く良く聴こえるけど、そうでないときは音が聴き取れなかったり。
だから、使う状況によってどんなスピーカーを選ぶかっていうことが大事だと思っていて。以前はスタジオで使われているような定番シリーズのスピーカーを使っていたこともあるけど、自分の作業部屋と、作りたい音楽と、出せる音量といったところで、一番しっくりきたのがKRKのスピーカー。
いわゆる一般的に知られているようなメーカーではないと思うけど、自分は好きでずっと使ってますね。海外のクラブミュージック系のクリエーターは、KRKのスピーカーを使っている人が結構多いと思います。
SHURE M44-7
DJ JIN:カートリッジはSHURE M44-7という、こちらも定番なんですが、なんと何年か前に生産が終わってしまって。世界中のDJが使っていたこのSHURE M44シリーズの生産が終了して困ってます。
——今はどうなさっているのでしょうか?
DJ JIN:今はストックを少しずつ切り崩しながら(笑)。
——そうなんですか・・・。
DJ JIN: 自分はRHYMESTERのライブもそうだし、クラブプレイに関しては100%アナログレコードを使用しているので、レコードの溝から直接音を拾うレコード針は非常に重要で。特にヒップホップのDJはスクラッチとか、いわゆる2枚使いとか、レコードを激しく扱うことがあるので、スクラッチしても針飛びしないことがまず大事。
あと、非常に貴重で高額なレコードもプレイするので、できるだけレコードの溝を傷つけないレコード針が必要で。それこそ何十万円で取引されたこともあるようなレコードをキューイング(頭出し)したり、上下に軽くスクラッチすることもあるから。
いろいろ試した結果、やっぱり行き着く先はM44-7。M44シリーズには、M44GとM44-7があるんだけど、なぜM44-7を選んだかというと、音を大きく拾ってくれるから。爆音でDJプレイするときに、ハウリングするかしないかという部分で非常に大事になってくるので、M44-7を使ってます。
あと、他のレコード針と比べて、音を正確に拾って出してくれる。いわゆるオーディオ向けのレコード針ってなると、より音を正確にトレースする良い針がいっぱいあるけど、総合的な面で考えてDJとして一番使えるのがM44-7かな。
ということで長年愛用しておりますが、生産終了になってしまったので、買いためていたストックを切り崩しながら(笑)。
——JINさんのようなプロのDJの方の使用頻度で、どのくらい持つものなのでしょうか?
DJ JIN:前はツアーごととか、1年くらいとか、なんとなく目安があったんだけど、今はとりあえず行けるところまで行く(笑)。まぁ、スクラッチとか2枚使いしてると、針先が曲がってくるので、そこら辺のあんばいを見ながら「まだイケるかな?」とか。
——また生産してほしいですよね。
DJ JIN:やっぱ、世界中のDJがM44シリーズの復活を待ち望んでいるっていうかね。とにかく自分みたいなヒップホップDJで、高額なレコードもかけたりするんだったらSHURE M44-7。この針先の優しさはマストかな。
DJ JIN:ちなみに、ここ(カートリッジ・ケースの内側)になぜ10円玉が貼ってあるのかわかる?
——・・・わかりません。
DJ JIN:DJって基本的に、自分のカートリッジを持っていって使っている人がほとんどだと思うんだけれど、自分のレコード針を付け替えるときに、たまに接点がちょっと怪しいターンテーブルがあったりして。
——お店にあるターンテーブルの状態が良くないことって、ありますよね。
DJ JIN:カートリッジを付けるアームの部分の接点が怪しいときに、LRの片チャン(左右の片方のチャンネル)しか音が出なくなることがあって。そういうときに、接点の先に10円玉をこすりつけてからもう一度アームに取り付けると、銅が付着することで通電性が良くなる。10円玉って銅でできてるじゃないですか。
——なるほど!
DJ JIN:銅ってむちゃくちゃ通電性が良いから、接点不良を解消できる。これはディスコ時代からやってる沖縄のベテランDJから教えてもらったんだけど。
——へぇ、いいことを聞きましたよ。
DJ JIN:で、通電性が良くないときに、ここの先をなめちゃう人が昔よくいて(笑)。
——(笑)。
DJ JIN:確かに一瞬、水分で通電性は良くなるんだけど、そのときだけ(笑)。なめると汚れるし、錆びるからやめた方がいいです。
UNION PRODUCTS 45 Adapter
DJ JIN:あと7インチ・ホルダー。メイド・イン・ジャパンのUNION PRODUCTSというメーカーが出した7インチ・ホルダーの安定性が最高です。
DJをやるときに、7インチ・レコードのセンターホールが大きいと安定しなくて。キューイングしてレコードをくるくる回したり、前後に動かしたりしていると、レコードがずれてアダプターからはずれちゃうんですよね。でも、このUNION PRODUCTSのホルダーは、はめ込み具合がちょうど良い。安定感がハンパないです。
思い出のレコード
小学生時代に貸レコード屋で借りたレコード
——では、ここからはレコードについてお聞きします。レコードというもの自体に触れた瞬間って覚えてますか?
DJ JIN:父も母もクラシックをやっていた音楽一家なので、物心がついたころから家にオーディオ・セットが用意されていて、クラシックのレコードもいろいろあって。
父親から「レコードはね、溝のところを絶対に触っちゃダメ。指紋とか汚れが付いたら、本当に大変だから」みたいなことを言われて。「あ、もの凄く丁寧に扱わなきゃいけないんだな」みたいなことを知りました。
——英才教育ですね。
DJ JIN:だからもう、今みたいにレコードの盤面に触ってゴシゴシ、なんてことは絶対にダメ(笑)。非常に丁寧に扱う繊細なものだっていう印象。
——自分で最初に買ったレコードって覚えてます?
DJ JIN:最初に買ったレコードは覚えてないんだけど、当時、貸レコード屋さんってあったじゃないですか。レコードが高くて買えないから、貸レコード屋で借りて、カセットテープにダビングして、私的に楽しむ(笑)。
——私的に(笑)。
DJ JIN:そう(笑)。その貸レコード屋さんで、最初期に借りたレコードのひとつは覚えてます(と言って、レコードを取り出す)。
DJ JIN:横浜伊勢佐木町のオデオンという商業ビルに入っていた友&愛(※1)で借りたナムコの『ビデオ・ゲーム・ミュージック』。細野晴臣さん監修です。まだレコードを買えるようになる前のDJ JINが、貸レコード屋さんで借りた最初期のレコードのひとつ。
※1:80年代に全国展開していた大手レンタル・レコード店。
DJ JIN:ゲーム自体も好きだったし、その音楽にのめり込むっていうこともあって。それこそ、ゲームセンターに行って、録音できるウォークマンをスピーカーに貼り付けて、音を録りたいと思っていたから(笑)。
——わはは(笑)。
DJ JIN:実際にやってる人もいたから「オレもやりたい!」みたいな。それくらい、音楽だけを楽しみたいっていう気持ちがあったところに、このレコードが出て。
——そのLPを友&愛で借りたのは、何歳くらいのときですか?
DJ JIN: 1984年だから小6だね。このレコードが発売されるという情報が出てから発売日を調べて、友&愛に電話して「いつ入荷しますか?」って聞いて。それで、発売後に「入荷しましたか?」って確認してから借りに行った。ひとりで行っても貸してくれないから、親と一緒に行ったんだと思う。
——そうか、小学生には貸してくれませんよね。
DJ JIN:保険証とかも必要だから。それで、死ぬほど聴き続けたっていう。
——当時は、もうファミコンもあったんですか?
DJ JIN:ファミコンも出てたけど、ゲームセンターにあるゲームの方が好きだった。
中学に入って、パソコンを買ってもらって。いろいろな音色を出せるNECのPC-8801 mkIISRという初のFM音源搭載の家庭用パソコンなんだけど。そのころ、ゲームミュージックの楽譜が載ってる冊子があって、その楽譜からプログラムを起こして、パソコンでゲームミュージックをカバーしてた。
——そのころからプログラミングをやっていたとは!
DJ JIN:そう。三つ子の魂百までって感じ。
——まさに(笑)。このレコードには、ゲームで使用されている音楽がそのまま収録されているんですか? スタジオミュージシャンによるカバー版といったものではなくて。
DJ JIN:基本的にはゲームに忠実な内容になってる。
——それは良いですね。私は子供のころ、プロレスのレコードを聴いてがっかりしたんですよ。テレビや会場で聴いているテーマ曲とまったく違うアレンジで。
DJ JIN:あはは(笑)。中には、細野さんがアレンジしまくった曲もあるけど、それも凄く完成度が高くて感動的だった。
——現在手元にあるレコードは、いつ入手したんですか?
DJ JIN:実は一度手ばなして、また買い直したの(笑)。最初に買ったのは20歳すぎかな。
——RHYMESTERに加入してからのことですか?
DJ JIN:加入してからかな。買い直して聴き直したときは、こみ上げてくるものがありました。
ディスコの定番曲を探し求めて、中古レコード屋へ
——初めて買った中古レコードって覚えてます?
DJ JIN:それも覚えてなくて。
貸レコード屋さんでレコードを借りていた時代から、しばらく経ってCD時代に入っていって。で、中学生のころはCDでビートルズとか聴いてた。だから、レコードは中学時代に遠ざかったの。
高校に入ってからヒップホップやR&Bに出会って。夜遊びとかもするようになって「DJになりたい!」と思って。で、DJが扱っているのはもちろんレコードだから。
——当時は、誰もがレコードでプレイしていたわけですからね。
DJ JIN:それでまたレコードに注目するようになって。高校生だったから、ターンテーブルとかDJセットはお金がなくて買えないけど「好きな曲のレコードはちょこちょこ買っていけるな」みたいな。
それで当時、よく出入りしていた横浜のサーカスというディスコで、DJが回しているレコードを「この盛り上がってるときにかかってる曲、なんだろう?」って目をぐるぐる回しながら必死に覚えて、家に帰ってからメモして。
盛り上がっていたのはいわゆるクラシックだから、ちょっと前の曲が多くて。新譜のレコード屋さんでは売ってないので「じゃあ、中古屋さんに行ってみよう」と。
「サーカスで定番曲としてかかっているレコードを探す」ってことが、レコードを買い始めた自分にとっては大命題で。「これは絶対に欲しい!」みたいなレコードが何枚かあったんだけど、その中のひとつがこれ。
DJ JIN:ロック・マスター・スコット&ザ・ダイナミック・スリー「The Roof Is on Fire」ですね。80年代ヒップホップの名曲のひとつとされているんだけど、サーカスでピークタイムになると客が「早くこの曲をかけてくれぇ!」みたいな。
——それは熱いですね!
DJ JIN:大盛り上がり曲のひとつ。この曲の最後の方に、みんなで声を合わせて言うフレーズがあるんだけど、そこが盛り上がる。
だから「うわ、すげえ盛り上がってる。なんだ、このヤバい曲は?」みたいになって。で、目を皿にしてラベルを見るんだけど、長いじゃん(笑)。
——確かに(笑)。
DJ JIN:「読めねー、読めねー、ロック? えっ、えっ」みたいな感じで(笑)。「ロック・マスター?え、曲名? 読めねー」みたいな(笑)。
——回転してるし、アーティスト名も長いし(笑)。DJに嫌がられませんでした?
DJ JIN:うん。でも、それしか情報を得る手段がないから。Shazamもないし。
——DJも教えてくれないし(笑)。
DJ JIN:教えてくれない(笑)。それでもう、目をぐるぐる回しながら。
——回転しているレコードのラベルから、これを読み取るのは大変ですね(笑)。
DJ JIN:ほんとに(笑)。
「ロック・マスター? スコット? え、ルーフなんとかファイヤー?」みたいなのを手がかりに、中古レコード屋さんのヒップホップの「R」のコーナーを見て「あれ、これかな?」とか言いながら買ってみて。で、家に帰ってから聴いてみて「おおっ、ヤベー、来たぁ!」みたいな。
——掘り当てたときの興奮は、尋常ではありませんよね。
DJ JIN:そうそう。このレコードを買えたときに、横浜サーカスの週末のピークタイムが家でもちょっと楽しめるみたいな。中古レコード屋さんでレコードを買い始めたころに、目標にしていた中の1枚でした。懐かしすぎる。
でも、今はいいですよね。別にオレ、自分がかけてる曲をShazamしていただいても全然OKだから。今はそういうもので簡単に調べられるじゃないですか。いい時代ですよ。
地球をさまようレコード
——入手するのに、とても苦労したレコードってあります?
DJ JIN:ラロム・ベイカーの未発表曲「Love Will Make It Better」。昔レコーディングされたけど、当時発表されなかった曲です。まぁ、2009年に出たレコードで、レア盤とかではないんですけど、ソウルの素晴らしい曲で。
この7インチは、アメリカのレコード屋から買いました。今は便利ですよね。海外通販をスマホで簡単にできてしまう。欲しいレコードをスマホで検索して「ポチッとな」(※2)すれば、全世界から届いてしまう素晴らしい世の中でございまして。
※2:アニメ『ヤッターマン』のボヤッキーが、スイッチを押す際のセリフ。
——本当にありがたいですね。
DJ JIN:トラッキングで、荷物が今どこにあるかわかるじゃないですか。
——はい。
DJ JIN:それで、向こうのセラーから「送っといた」みたいな連絡がきたから、トラッキングを見たら「アメリカから東京に届きました」とのことで。でも、しばらく経っても届かなかったのでトラッキングを見たら、アメリカに戻されていて。
——えぇ!
DJ JIN:「おいおい、戻っちゃったよ」と思って。でも待つしかないから。それで、しばらく待ってたら「東京に着きましたよ」と連絡がきたので、今度こそ届くだろうと思ったら、また着かなくて。で、トラッキングを見たら、また戻されていて。
——わはは(笑)。
DJ JIN:「・・・ちょっと嫌な予感がする。宛名とかが読みにくくて戻されちゃったみたいなパターン?」と思って。そこからしばらく音沙汰がなかったんだけど、今度はアメリカからドバイに行って(笑)。
——なぜドバイに(笑)。
DJ JIN:「えぇ! どっちかっていうと逆方向じゃね?」みたいな(笑)。それで、しばらく経ったら今度はオーストラリアに行って(笑)。
——(爆笑)。
DJ JIN:「おいおいおいおい、これいつ届くんだよ(怒)」と思って。そしたらオーストラリアから日本に来た。
——おおっ!
DJ JIN:地球を逆側から1周してきた(笑)。「ここからまたアメリカに行くようなことはないだろうな?」と思っていたら、ようやく我が家に届きまして。
——遂に!
DJ JIN:だからこのレコードは、アメリカ〜日本を2往復してから、ぐるっと地球を1周して日本に届いたの。
——長い道のりでしたね。
DJ JIN:届いたときに「おせーよ(怒)」っていうのもありながら、むちゃくちゃ地球を旅して我が家に来てくれたから感慨深さもあって。「よしよし、迷子になっちゃったけど頑張ったね」って撫でたくなる(笑)。
でも、そのパッケージングを見たら、ちゃんと綺麗に印刷されている荷札で、どこにも迷う要素がないの。
——殴り書きで読めないとかではなかったんですね(笑)。
DJ JIN:そう(笑)。まぁ、結果的には忘れられないレコードになりました。曲自体も素晴らしいし。
「オレのお気に入りのレコードが・・・」事件
——お気に入りのレコードについて、なにかエピソードってあります?
DJ JIN:お気に入りのレコードが「あぁぁぁっ・・・」ってなっちゃった話。個人的に、広く世に問いかけたいことでもあるんだけど。
——気になりますね。
DJ JIN:じゃあ、お気に入りのレコードの話を。
DJ JIN:こちらですね。マイティ・ライダースの『HELP US SPREAD THE MESSAGE』。Sun-Glo Recordsの正規盤です。これはもう、レアグルーヴとかソウル、ファンクとかそういう音楽が好きでしたら「お気に入りじゃない人っているのか?」っていうくらいの名盤。
——確かに(笑)。
DJ JIN:みんな、お気に入りじゃないですか。自分もお気に入りなんですよ、凄く。名曲も入っていて。聴くも良し。DJ プレイも良し。素晴らしいじゃないですか?
——はい。
DJ JIN:しかもこのレコードって、まぁよく知られた話で、いわゆるプロモ盤と正規盤があって。プロモ盤はもちろん、ちゃんとしたカッティングがされていて問題なく聴ける。
で、正規盤に、肝心かなめの「Evil Vibrations」という名曲の音が「うぉわん、うぉわん」とピッチが変になっちゃうバージョンと、ちゃんと再生できるバージョンがあって。その「うぉわん、うぉわん」ってなっちゃう方は、いわゆる「難あり盤」ってやつですね。別にそれはそれでいいんだろうけど、そうじゃない方がもちろん良いわけ。で、わたくしが持ってるのはもちろん、ちゃんと聴けるバージョンの青ラベル正規盤です。いまや中古盤屋さんとかで恐ろしい値段がついているけど。
そのちゃんと聴ける正規盤の見分け方は「MIGHTY RYEDERS FULLERSOUND DJ JIN」とかで検索すると、わたくしがちょっと入れ知恵したゴベちゃん(聞き手)のブログが出てまいりますので(※3)検索していただければという感じです(笑)。
※3:こちらです。
http://gobe-vinyl.jugem.jp/?eid=62
——おかげさまで、私も入手することができました。ありがとうございます(笑)。
DJ JIN:で、わたくしが持っているものは、盤もなかなか良い状態で。ピカピカでしょ?
——凄く綺麗ですね。
DJ JIN:盤質が良いじゃないですか。だからこの盤質をキープするために、定期的にクリーニングしていて。
で、ある乾燥した冬の日に、このレコードの盤面をクリーナーで拭いていたんですよ。そしたら、どこからともなく空気中から小さな紙っぽいホコリが「ふー」って舞い漂ってきて、それが静電気に吸い寄せられて「べターン」ってくっついちゃったの。「えっ?」と思って、レコードクリーナーで拭いたら、溝にめり込んじゃったの。「えええっ、そんなことってある?」と思って、何度も拭いたんだけど取れなくて。
——ええっ!
DJ JIN:「ヤバい、まさかノイズが出ちゃうの?」と焦って再生したら、そのホコリが完全にレコードの溝にめり込んじゃって。で、ちょっとだけなんだけどノイズが出るようになっちゃって。
——マジですか!
DJ JIN:それがこれです。この白い点(と言って盤面の小さな白い点を指す)。
DJ JIN:本当に怪奇現象としか言いようがない。「空気中のホコリが静電気に吸い寄せられてレコードに張り付いてめり込んで取れなくなっちゃった」事件。
——そんな事件、聞いたことないですよ(笑)。
DJ JIN:「マジかぁぁぁ」と思って。まぁ、「Evil Vibrations」じゃなくて、スローなタイトル曲なんですけど。
——いや、良い曲ですよ。
DJ JIN:そう、良い曲。それで、ちょっとだけ「プツッ」とノイズが出るようになってしまって。
——それはショックですね・・・。
DJ JIN:実はこのマイティ・ライダースだけじゃなくて、別のレコードでも同じ現象が起こったことがあって。
——他にも!
DJ JIN:そう。空気中に漂っていた紙っぽいホコリが、静電気に吸い寄せられて「べターン」って付いて取れなくなっちゃったの。そのレコードは安く買えるやつだったから、すぐに買い直しちゃったんだけど。
ちょっとね、この現象についてレコード好きの皆さんに問いかけたい。このような経験がある方はいらっしゃいますか?」って。
——JINさんのX(@_DJ_JIN_)やインスタグラム(@__dj_jin__)に連絡をいただければ、って感じですかね? もしくは私に(どちらも@gobe_vinyl)。
DJ JIN:ですね。
DJ JIN:非常に悲しい話なんですが、私にとってマイティ・ライダースのSun-Glo正規盤の価値が変わることは決してありません。ただ、そういうことが起きてしまったというエピソードを話したかった。
——本当にショックですよね。
DJ JIN:大ショックだよ。「よりによって、なぜこのレコードに・・・」って。一体化しちゃってるからどうにもならない。しかも高額盤だから尖ったものとかでいじれないし。
——ですよね・・・。他人事だから笑って聞いてますけど、自分に置き換えたらゾッとしますよ。
DJ JIN:あはは(笑)。それでこのエピソードをRYUHEIくん(※4)に話したら「あぁ、それはお気の毒さまです」みたいな感じで。それでRYUHEIくんも、お気に入りのレコードが割れてしまったとか、そういう話を披露してくれて。そういう気持ちをね、シェアして慰めてくれて。
※4:2021年2月21日に逝去されたRYUHEI THE MANこと手代木隆平さん。DJ、レコード店のオーナー、執筆と多方面で活躍。RYUHEIさんの主宰レーベル「AT HOME SOUND」からDJ JINさんの作品もリリースされています。
DJ JIN:でも、みんな(DJやコレクター)それぞれ「お気に入り盤がどうにかなってしまった」みたいなエピソードを持っていて。
——私もそういうエピソードがあるので、JINさんを慰めてあげたいですよ。そして私も癒されたいです。
DJ JIN:あはは(笑)。「オレのお気に入りのレコードが・・・」シリーズ。
——シリーズ化したくありませんけど(笑)。
DJ JIN:マジで「なぜ、オレの大事なお気に入りのレコードに・・・」って思うよ。ノイズが出るのはちょっとだけなので、他の人が聴いてもきっと気づかないと思う。だけど、オレは気づくから。「あ、今だ」みたいな感じで。
——他人は気がつかないけど、自分だけは「もうすぐ来るぞ、来る、来る、あぁ来た・・・」って(笑)。
DJ JIN: 「今、ブチッて。あぁぁぁ」って(笑)。
——泣いちゃいますよね。
DJ JIN:泣くよ。ほんと、過去を取り戻したい。まったく傷がなかったマイティ・ライダースの正規盤に戻ってほしい(笑)。しかも今、何十万とかしちゃってるから。買い直すわけにもいかないじゃないですか。
——高騰してますよね。
DJ JIN:オレとしては、あの現象を他に誰か経験したことがないかっていうのを知りたい。張り付く瞬間のスピードがすげえ早いの。だんだん近づいてきて「バーン」ってくっ付くから。
——ほんと、聞いたことないですよ。
DJ JIN:だから静電気がある状況では、あまりレコードを取り出さないようにしてます。
——悲しい話を、おもしろおかしく話していただきましてありがとうございます(笑)。
DJ JIN:せめてネタにでもしておかないと、気持ちの回収ができない(笑)。「あぁ、DJ JINも貴重盤で苦労してるんだなぁ」と思ってもらえれば。
皆さんもそれぞれあるわけですから。「お気に入りのレコードが・・・」事件が。だからそういうね、悲しい話はシェアしていきましょう!
DJ JINが自身の作品を語る
——ご自身の作品についても聞いてみたいと思いまして、レコードを持ってきました。
DJ JIN:ちなみに(ジャケットに書き込まれている)この「師匠」っていうのは、ゴベちゃんがですね、わたくしにグラップリングという関節を極めたりする格闘技を教えてくれていたことがあって。そういう格闘技マスターという意味の師匠ゴベさんですね。「指導よろしく」とか書いてあります(笑)。
(ここからしばらく格闘技界隈の話に脱線したので割愛)
——それでは、こちらのレコードから。
RHYMESTER 『B-BOYイズム』 promo 2x12" (1998)
DJ JIN:「パチアツ」いいじゃないですか。
——「B-BOYイズム (パチアツRemix)」が収録されているのは、このプロモーション用の2枚組12インチだけなんですよね。
DJ JIN:そうです。これはいわゆるRHYMESTER、そして日本語ラップのレア盤のひとつですね。プロモオンリーの非売品。
RHYMESTER 『リスペクト – Instrumental -』 promo 2LP (1999)
——こちらもプロモ盤ですね。JINさんからいただいた『リスペクト』のインスト盤です。
DJ JIN:いまだに、ライブでこのインスト盤を使うことがありますよ。
——そうなんですね!
DJ JIN:基本的にRHYMESTERのライブは、レコードでライブオケが出ているやつは、ちゃんとレコードを使ってます。だから『リスペクト』の曲をやるときは、このレコードを引っ張り出してきて。
V.A. 『BLUE SPIRITS - THE 65th ANNIVERSARY of BLUE NOTE』 promo 12" (2004)
——こちらは、Blue Note Recordsの65周年を記念して制作されたカバーアルバムから、プロモオンリーでカットされた12インチ。
DJ JIN:あっ、これは凄いよね。サインがそろってる。
——JINさんとマーク・ド・クライヴ・ロウ、そしてヴォーカリストのベンベ・セグエのサインですね。
DJ JIN:ドナルド・バード「Wind Parade」のカバーを作ったんですけど。ほんと、このサインのそろいっぷりは凄い。いくら、おばあちゃんが都内に住んでいるというマーク・ド・クライヴ・ロウとはいえ(笑)。
——お母さんが日本人なんですよね。
V.A. 『METRO SAMPLER / LINE 1』 12" (2005)
——breakthroughのレコードも持ってきました。「The Annex」を収録した12インチですね。
DJ JIN:「The Annex」も懐かしいね。
——フランスのFaces Recordsからライセンス・リリースされたんですよね。
KUTTS 『LIFE WORK』 12" (2001)
——個人的に一番掘るのが大変だったのがこちらですね。2006年にCISCO(※5)のノベルティとして配布されたJINさんのミックスCDでこの曲を初めて聴いてから、入手するのに数年かかりました。
※5:かつて存在したレコード店。
DJ JIN:KUTTSね。コンちゃん(DEV LARGE)も反応してくれた思い出の曲ですよ。
——2015年にご逝去されたBUDDHA BRANDのDEV LARGEさんが選曲したコンピレーション・アルバム『ABSOLUTELY BAD』にも収録されたんですよね。
DJ JIN:そうそう。ありがたいことです。
CRO-MAGNON-JIN 『THE NEW DISCOVERY』 4x7" (2015)
——そしてこちらは、3ピース・ジャム・バンドのCRO-MAGNONとJINさんのユニット、CRO-MAGNON-JINの7インチ4枚組BOXセットですね。
DJ JIN:これは自分としても非常に思い出深いレコードですね。曲自体はもちろん、音録り、ミキシング、そしてレコードのマスタリング、カッティング、といった全工程でうまくいった作品。レコードにするのって最終的にちょっと読めない部分があるんだけれども、これは「あ、完璧にいったかも」って思えたので。レコードになって音を鳴らしたときに、ガッツポーズが出た。
——納得のいく仕上がりだったんですね。
DJ JIN:うん。レコードとして気に入ってます。
DJ JIN 『Softly / Caterpillar Funk』 7" (2012)
——1stプレスと2ndプレス、どちらも持ってきました。
DJ JIN:あはは(笑)。間違えて、ラベルの裏と表が逆になってるやつ。
——1stプレスは、工場見学の参加者だけが入手できたレア盤ですよね。
DJ JIN:そう。東洋化成のレコード・プレス工場社会見学ツアーのおまけとして作ったレコードですね。
——その1stプレスは、ラベルのAB面が逆になってしまったんですよね。その後、ラベルの表と裏が正しく貼られた2ndプレスが数量限定で一般流通されて。
DJ JIN:そうそう。
JOHNNY PATE / ARCHIE SHEPP 『Shaft in Africa (Addis) / Blues for Brother George Jackson』 7" (2017)
——そして、JINさんセレクトによる70年代の名曲をカップリングした再発7インチ。A面がジョニー・ペイトの「Shaft in Africa」、B面がアーチー・シェップの「Blues for Brother George Jackson」ですね。
DJ JIN:再発事業。「Shaft in Africa」のオリジナル盤7インチは当時、スペイン盤しか出ていなくて。その7インチはレアなので「ちゃんと今のかたちでリイシューして流通させることも必要なのでは?」ということで選んでみました。
のちに他のレーベルからも再発7インチが出たみたいだけど、これが初の7インチ再発だったと思います。
——B面も素晴らしいですよね。
DJ JIN:アーチー・シェップの名盤『ATTICA BLUES』の曲です。
ユニバーサルミュージックから送られてきたのが、曲の最後でフェードアウトしちゃうバージョンで。でもアルバムを聴くとこの曲って、次の曲とちょっと被りながら最後かき回しっぽく終わるカットアウトのバージョンになっていて。
で、そのカットアウトのバージョンじゃないと意味がないんですよ。DJ的にはフェードアウトするより、カットアウトしてもらう方が使いやすいから。だから「カットアウトしているところまで入れたいんですよ」ってレコード会社の方に掛け合ったら「わかりました。なんとかしましょう」と言って、ちゃんとアルバムからマスタリング用に使える音源を用意してくれた。
もし、今後この曲が7インチになったとしても、おそらくフェードアウト・バージョンが出るんじゃないかな。
——単に「7インチで出しました!」ということではないところがさすがです。AB面、どちらも意義のある7インチ化ですね。
DJ JIN:あと「Shaft in Africa」はね、坂口征二(※6)が入場するときに使っていたことがあるという衝撃の事実。プロレス入場曲でもあるという(笑)。
——衝撃の事実ですよね。まさか坂口が、この曲で入場していたなんて。プロレス実況アナウンサーの清野茂樹さんとの対談(※7)でも、このことを熱弁してましたよね。
DJ JIN:大事なことだから何度でも言っておかないと(笑)。
※6:昭和期に活躍したプロレスラー。元柔道日本一。次男は俳優の坂口憲二。
※7:清野さんの著書『1000のプロレスレコードを持つ男』に掲載された対談。
double 『bed』 12" (1998)
——ラストはこのレコードです。
DJ JIN:あぁ、Mummy-Dリミックス。Mr. Drunk(※8)名義の。
※8:RHYMESTERのラッパー、Mummy-Dさんの作編曲家名義。
——Mummy-Dさんのリミックスに、JINさんがスクラッチで参加しているんですよね。
DJ JIN:そうですね。スクラッチ、入れましたね。
——このレコードにはサインが入っていなかったので、ぜひお願いしたいと思いまして。
DJ JIN:わかりました(笑)。
——ありがとうございます。最後に告知などがあれば、ぜひ。
DJ JIN:「SNSやTwitchを見てください」くらいかな。
https://www.instagram.com/__dj_jin__/?hl=ja
https://www.twitch.tv/dj_jin_jpn?lang=ja
——本日はありがとうございました。
DJ JIN:じゃあ、片付けますか。ちゃんとマイティ・ライダースのLPをしまわないと。
——お茶をこぼしてジャケにかかったたら、泣いちゃいますよね(笑)。
DJ JIN:泣くよ、ほんとに(笑)。
(撮影・鍋倉聡吾)
(取材/文・五辺宏明)