聴いて楽しい！ 眺めて楽しい！ ピクチャーレコード
皆さん、ピクチャー盤と呼ばれるレコードを見たことがありますか？
レコードといえば黒いビニールでできた円盤が一般的ですが、中には盤面に写真や絵が施されているレコードが存在します。
KATE BUSH 『This Woman’s Work』 UK 7” (EMPD 119) - 1989
こちらは、米R&Bシンガーのマックスウェルもカバーしたケイト・ブッシュの人気曲「This Woman’s Work」のピクチャーレコードです。国内でもACOがカバーしていますね。
盤面に溝が刻まれているので、通常の黒いレコードと同じように再生できます。
写真やイラストなどを印刷した紙をはさみ込んで製作されるピクチャーレコードは、数量限定でプレスされるケースが多く、コレクターズ・アイテム化している作品も数知れず。
人気スターのグッズ的な要素もあるため、このようなものも制作されています。
タイガー・マスク『THE TIGER MASK』 Japan LP (DSK-4004) - 1983
日本中を熱狂させた天才プロレスラー、タイガーマスク（※）のピクチャーレコード。名勝負の実況や、タイガーマスクこと佐山聡が歌う「Can’t Help Falling in Love」などが収録されています。
80年代前半に一大ブームを巻き起こしたアントニオ猪木率いる新日本プロレス。ゴールデンタイムに放送されていたテレビ中継の視聴率は20%を超え、会場も連日超満員。まさに最盛期を迎えていた新日本プロレスで、圧倒的な人気を誇っていたのがタイガーマスクでした。
※レコードには「タイガー・マスク」とクレジットされていますが、本文には一般的に使用される「タイガーマスク」表記を採用しました。
目次
生まれて初めて見たピクチャーレコード
堀欣也、こおろぎ’73、ザ・チャープス『がんばれ元気』 Japan 7” (CH-211) - 1980
こちらは、1980年から1981年にかけてフジテレビ系で放送された小山ゆう原作のボクシングアニメ『がんばれ元気」のピクチャー7インチ。私が初めてピクチャーレコードの存在を知ったのは、このシングル盤です。
当時、カネボウ食品（現・クラシエフーズ）が販売していた「プカポン」というラムネの粒が浮き沈みする炭酸入り粉末飲料の販促キャンペーンで『ドラえもん』や『銀河鉄道999』といった人気アニメのレコードがもらえる懸賞がありました。
欲しいレコードを指定することができず、大好きな『サイボーグ009』のレコードが当たることを祈りながら応募するも、数ヶ月後に届いたのは『がんばれ元気』のピクチャーレコードだったのでがっかり。一度も観たことがないアニメだったので。
それでも、アニメのキャラクターが描かれているレコード盤から音が出るのがおもしろくて、何度も再生。生まれて初めて見たピクチャーレコードに魅了されてしまったのです。聴き続けていくうちに歌詞を覚え、アニメも観るようになりました。
今回掲載した『がんばれ元気』のピクチャーレコードは、最近入手したものです。
（子供の頃に所有していたものは、母親に捨てられた可能性大）
数十年ぶりにターンテーブルの上で回転する主人公の堀口元気を眺めているうちに、テレビアニメに夢中だったことや、母親にアニメや特撮のレコードを買ってもらった記憶がよみがえってきました。
2021年12月20日に公開された記事で、人気アニメのレコードを紹介しています。そちらもぜひご覧ください。
ピクチャーレコードの注意点
SILVA 『Almost Love / Summer Sick』 Japan 12” (HIHGJ-1005) - 1999
1990年代後半から2000年代前半にかけて活躍した女性シンガー、SILVAのピクチャーレコード。
オリコン週間アルバムチャート6位を記録した『HONEY FLASH』（1999年）に収録された「Almost Love」と「Summer Sick」をカップリングした12インチ。AKAKAGEが手掛けた「Summer Sick」のドラムンベース・リミックスが秀逸です。
普段はレコードを紙製のジャケットに入れて保管していますが、発売時には透明なビニールカバーと内袋（ビニール製）にレコードが入っていました。久しぶりに当時の状態に戻してみましょう。
シワシワになった内袋が、ビニールカバーの内側に張りついていました。もしもこの状態でずっと保管していたら、盤面が変色していたかもしれません。
多くのピクチャー盤に使用されている厚手のビニールカバーにレコードを入れたまま、高温多湿な環境で長年保管すると、ビニールカバーと内袋とレコードが張りついて盤面が変色することがあります。
塩化ビニールに含まれている可塑剤という添加物の影響によって起こる「ビニ焼け」や「塩ビ焼け」と呼ばれる現象で、再生時に変色した部分からノイズが出るようになってしまうと、修復することができません。
私もこれまでに何度か、ビニ焼けして「サーッ、サーッ」というノイズが出るようになってしまったお気に入りのレコードを泣く泣く手放した経験がありますが、いずれも二束三文にしかなりませんでした。不良盤なので当然です。
ビニールカバーに入れて保管したレコードが全てビニ焼けするわけではありませんが、紙製のジャケットに入れかえた方が無難な気がします。
不要になったビニールカバーを処分しようと思ったこともありますが、曲名やクレジットが記載されているシールが貼ってあるので捨てることができません。それに、何らかの事情でこのレコードを売ることになった場合、付属品が全て揃っていないと査定額が下がると思うので。
（大好きなレコードなので手放しませんけど）
取り扱いが難しい分、状態が良いものであれば査定額がアップするかもしれません。コンディションが良好なピクチャーレコードの人気盤を手放す際には、MIONアップサイクルにご連絡ください！
人気ロックバンドのピクチャーレコード
■MOTӦRHEAD
MOTӦRHEAD『Motörhead / City Kids』 UK 7” (NSP 13) - 1977
世界中のヘヴィメタル／ハードコアバンドに多大な影響を与えたMOTӦRHEADのピクチャー7インチ。
両面に描かれているのは、シンボルマークの「War Pig」。MOTӦRHEADファンだったら部屋に飾りたくなるはずです。
（私も飾っていたので）
A面は、セルフタイトルを冠した1stアルバム『MOTӦRHEAD』（1977年）のトップを飾る「Motörhead」。リーダーのレミー・キルミスター（b,vo）がMOTӦRHEAD結成前に在籍していたHAWKWINDの作品として発表した楽曲を再録したものです。
激しさと疾走感を増したリメイク版「Motörhead」は「Ace of Spades」「Overkill」「Bomber」と並ぶ彼等の代表曲。
同曲のライブテイクを収録したピクチャーレコードも存在するので、MOTӦRHEADファンはこちも必携です！
MOTӦRHEAD『Motörhead / Over the Top』 UK 7” (BROP 124) - 1981
■ANTHRAX
ANTHRAX 『I Am the Law』 UK 7” (LAW 1) - 1987
METALLICA、SLAYER、MEGADETHと共にスラッシュメタル四天王と称されるANTHRAXのピクチャー7インチ。
レコード盤に描かれているのは、1995年にシルヴェスター・スタローン主演で映画化されたイギリスの人気コミック『JUDGE DREDD』の主人公、ジャッジ・ジョゼフ・ドレッド。「I Am the Law」は、このコミックを題材にして書かれた曲です。
「I Am the Law」を収録した『AMONG THE LIVING』は、ANTHRAX が1987年に発表した3rdアルバム。捨て曲なしの大名盤なので、未聴の方はぜひ！
■SUICIDAL TENDENCIES
SUICIDAL TENDENCIES 『Possessed To Skate』 UK 12” (VSY 96712) - 1987
マイク・ミューア率いるSUICIDAL TENDENCIESの2ndアルバム『JOIN THE ARMY』からシングルカットされた名曲「Possessed To Skate」のピクチャー12インチ。
このロゴやイラストが描かれたTシャツやキャップを、街中で目にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか？
私が愛用しているのは、プルオーバーのフーディーです。
マイク・ミューアの実兄、ジム・ミューアが創設したスケートブランド「DOGTOWN」とのコラボアイテムも人気がありますね。
SUICIDAL TENDENCIESのピクチャーレコードをもう1枚所有しているので、そちらも掲載しておきましょう。
SUICIDAL TENDENCIES 『13』 US LP (SR6461) - 2014
2013年に発表された11枚目のスタジオアルバム。ピクチャーレコードは2014年に発売されました。
本作でベースを弾いているのは、サンダーキャットことスティーブン・ブルーナー！
■SOUNDGARDEN
SOUNDGARDEN 『Rusty Cage』 UK 7” (AM 874 / 390874-7) - 1992
1991年に発表されたSOUNDGARDENの歴史的名盤『BADMOTORFINGER』から3枚目にシングルカットされた「Rusty Cage」のピクチャー7インチ。B面にFANCY「Touch Me」のカバーを収録した5000枚限定盤です。
『BADMOTORFINGER』が発売される直前に、同じシアトルのグランジ・シーンで活躍していたNIRVANAが『NEVERMIND』をリリース。一躍スターダムにのし上がったわけですが、我が家のターンテーブルにレコードが乗る回数が多いのはSOUNDGARDENの方ですね。
■AEROSMITH
AEROSMITH 『I Don’t Want To Miss A Thing』 UK 7” (666408 7) - 1998
1998年に公開された映画『アルマゲドン』のテーマ曲として大ヒットした「I Don’t Want To Miss A Thing」。長いキャリアを誇るAEROSMITHが、全米シングルチャートで1位を獲得したのはこの曲が初めてとのこと。意外ですね。
この曲を書いたのはAEROSMITHのメンバーではなく、STARSHIP「Nothing’s Gonna Stop Us Now」（1987年）やトニー・ブラクストン「Un-Break My Heart」（1996年）など、数多くのヒット曲を手掛けたソングライターのダイアン・ウォーレン。
近年、再評価が著しいアリーヤの2ndアルバム『ONE IN A MILLION』（1996年）に収録された「The One I Gave My Heart To」も、ダイアン・ウォーレンが書いた曲です。
■RED HOT CHILI PEPPERS
RED HOT CHILI PEPPERS 『Dani California』 UK 7” (W715/5439 15758 7) - 2006
2006年に発表された9thアルバム『STADIUM ARCADIUM』からのシングルカット。
米『Billboard』の週間シングルチャート6位にランク入り。2つのグラミー賞（Best Rock Song、Best Rock Performance by a Duo or Group with Vocal）を獲得しています。
日本でもオリコン年間洋楽シングルチャート1位を記録。なんてったって映画版『デスノート』の主題歌ですからね。
ヒップホップのピクチャーレコード
■PARAPPA vs DE LA SOUL
PARAPPA vs DE LA SOUL 『Say I Gotta Believe』 7” (Parappa 002) - 2001
元PSY・Sの松浦雅也のプロデュースで制作された大ヒット音楽ゲーム『パラッパラッパー』（1996年）の続編として2001年にリリースされた『パラッパラッパー2』。
サントラ盤も制作され、そこからカットされたのがこのピクチャーレコード。米ヒップホップグループのDE LA SOULと、人気R&BシンガーのDOUBLEことTAKAKOを迎えて制作された「Say I Gotta Believe」の7インチです。
■J DILLA
J DILLA 『The Shining EP』 UK 12” (BBE 12037) - 2006
2006年2月10日に永眠した稀代のビートメイカー、J・ディラのピクチャーレコード。
J・ディラが亡くなる直前まで制作していた音源を、ジャズドラマー／プロデューサーのカリーム・リギンスが完成させて同年8月に発表した『THE SHINING』から先行カットされた12インチEPです。A面に「So Far to Go feat. Common & D’Angelo」、B面に「Baby feat. Guilty Simpson & Madlib」「Love feat. Pharoahe Monch」を収録。
コモンとディアンジェロをフィーチャーした「So Far to Go」は、THE ISLEY BROTHERS「Don’t Say Goodnight (It’s Time for Love)」をサンプリングした至極の名曲です。
「So Far to Go」は、翌年7月に発表されたコモンの7thアルバム『FINDING FOREVER』にも収録されました。同作は、全米アルバムチャートで1位を獲得しています。
■GAGLE
GAGLE『うぶこえ (See the light of day)』 Japan 10” (JSV-100) - 2011
HUNGER（MC）、DJ MITSU THE BEATS（track maker）、DJ Mu-R（DJ）からなる仙台のヒップホップグループ、GAGLEのピクチャーレコード。
ERROLL GAYE AND THE IMAGINATIONS「You Don’t Want My Love」をサンプリングしたGAGLE屈指の名曲である「うぶこえ (See the light of day)」が配信で発表されたのは、2011年4月20日。東日本大震災の翌月です。
アナログ盤がリリースされたのは、同年8月。“音楽とスポーツで世界を一つに”をスローガンに、レーベル／マネジメント／レコードショップなど、さまざまな活動を続けるJAZZY SPORTからアナログ・リリース100作品目として、この10インチが発売されました。
レコード盤にも記されているHUNGERの優しさと力強さに満ちあふれた言葉に、勇気をもらった方もたくさんいることでしょう。
なお、本作の利益は、被災地復興支援のために全額寄付されています。
国内アーティストのピクチャーレコード
日本語ラップの名曲を紹介したので、他ジャンルの国内アーティストがリリースしたピクチャーレコードも掲載しておきます。
■Bonnie Pink
Bonnie Pink 『e.p.』 Japan 10” (PCJA-00027) - 1998
3000枚限定で発売されたボニー・ピンクのピクチャーレコード。1998年に発表された3rdアルバム『evil and flowers』から「Forget Me Not」「Your Butterfly」「He」「金魚」の4曲をアナログカットした10インチです。
2ndアルバム『Heaven’s Kitchen』（1997年）からもタイトル曲と「Lie Lie Lie」をカップリングしたピクチャー7インチがカットされているので、そちらもぜひ。
Bonnie Pink 『Heaven’s Kitchen / Lie Lie Lie』 Japan 7” (PCKA-00009) - 1997
■towa tei
towa tei feat. ayumi tanabe 『Butterfly』 Japan 7” (MQJL-3500) - 1998
1998年にリリースされたテイ・トウワのピクチャー7インチ。
ファッションモデルの田辺あゆみをゲストヴォーカルに迎えた歌ものドラムンベースで、翌年発表された3rdアルバム『Last Century Modern』にも収録された人気曲。
後にテイ・トウワと共にMETAFIVEを結成する高橋幸宏がコーラスで参加しています。
『Butterfly』のシングルはCDや12インチでもリリースされ、プロモ盤なども存在しますが、7インチはこのピクチャーレコードのみ。
ちなみにテイ・トウワは、全米4位を記録した大ヒット曲「Groove Is in the Heart」を世に送り出したDeee-Liteの元メンバーです。ベテランの音楽ファンには説明不要かと思いますが、若い方のために記載しておきますね。
■BOREDOMS
BOREDOMS 『Sunsidal Cendencies』 Japan 12” (WQJB-1023) - 1999
海外からの評価も高いBOREDOMSが、1999年にリリースしたピクチャー12インチ。B面にJUZU a.k.a. MOOCHYのリミックスが収録されています。
アートワークを手掛けたのは、ライブストリーミングサイト＆スタジオ「DOMMUNE」を主宰するグラフィックデザイナーの宇川直宏。
ビニールカバーに中心メンバーである山塚アイのサインが入っていますが、普段はレコードを取り出して別の場所に保管しています。レコードがビニ焼けしたら困るので。
■DESSERT
DESSERT 『SOUL SEARCHING』 Japan LP (RANCH-03 SEL-SIX) - 2000
BBのヴォーカリストとしてオルタナティヴロック・シーンで活躍する元COCOBATのRYUJIが、KASUGA（g：MOSQUITO SPIRAL）、JUN GRAY（b：KEN YOKOYAMA）、MUROCHIN（ds：WRENCH）と組んでいたハードコアバンド、DESSERTのフルアルバム。
本作のアートワークは、アンダーグラウンド・シーンで活動するバンドのジャケットやマーチャンダイズを数多く手掛けているUSUGROWが担当しています。
2018年8月、新大久保アースダムと町田クラシックスで開催されたチャリティーイベントで15年ぶりにライブを行ったDESSERT。同年7月に起きた西日本豪雨の被災地支援を目的とした2回限定の復活でした。いつかまた、4人が揃ってステージに立つ日が来ることを祈ります。
執筆：五辺宏明